義母がお風呂で溺れそうになった事件

今まで義母の体調のこともあり、退院後はずっとシャワー浴のみにしていました。しかし最近体の動きも良いとの本人から申し出もあり、そろそろ浴槽を使っての入浴もありなのかと考えました。ということで早速。

「今日は浴槽にお湯を張ったから入っていいよ。長湯は厳禁ね」

「わかった」

「ひとりで浴槽入れるよね?」

「大丈夫」

「一応、娘が声かけするからね」

「わかった」

ということで入浴。念のため入った時間を覚えておきました。退院してからというもの、義母はまともな思考ができていないなと常に感じていたので、こちらも最悪の場合は想定していました。5分置きに娘が風呂をチェックしに行く体制をとっていました。

義母はシャワー浴でも着替えや体を洗うのに20分ほど要します。そのため15分くらいたってからチェックしにいくことにしていました。1回目の娘チェック。義母は笑顔で入浴していたとのこと。よしよし。2回目のチェック。5分後だったのでそろそろ上がってと伝えるように娘に伝言。この時、義母は娘の問いかけにうなずいていたとのこと。さらに5分後くらい。脱衣所に上がった音がしないので娘に見てくるように言うと、娘から

「おばあちゃん、寝てる!」

「なに?」

急いで浴室に向かうと確かに寝ていた。急いで問いかける

「お母さん!わかる?」

「・・・・」

「お母さん!(大声)」

「・・・(かすかにうなずく)」

意識はうっすらあるが完全に脱力しているので、私が両脇を抱えても流石に引き上げることは無理。のぼせているのは理解できたので、急いでお湯を抜いた。ちなみにこの浴槽で意識がない時、のぼせが疑われる場合はお湯を抜くという行動は適切だったと後からくる救急隊員さんに教えられた。義母は軽く痙攣を起こして、ヨダレをたらしていた。これはどういう状況なのか理解できず、救急車を呼ぶレベルなのかもと娘に急いで伝える

「救急車を呼んで。パパ、お湯が抜けるまで両手が離せないから。手を話したらおばあちゃん溺れちゃうと思うから」

「え〜。どこに連絡するの?」

「110番!はやくして!」

「わかった!」

「違う、ごめん、119番だ!」

私も気が動転してしまっていた。救急車を呼んでから5分もしないうちにサイレンの音が聞こえてきた。早いな〜と感心しながら、お湯も溺れない位置まで抜けていたので、義母を抱えている手を離し問いかける。依然ヨダレをたらしている。見たくもない義母の裸がどうしても横目に写ってしまう。こういう状況でもそういうところに冷静な自分がいた。そうこうしていると救急隊員さんが到着。

事情聴取をされる。お風呂に入っていて意識が薄れたような感じだと伝えた。隊員さんがマットのようなものを使って2人がかりで浴槽から義母を引き上げる。そのまま脱衣所で横にさせ寝かせた。まだ起きない。何かしゃべっているのは理解できた。口元も震えているのがわかった。

「のぼせたようですね。意識もあるし、呼吸、脈も正常ですが体温が少し高いので、もう少し様子をみましょう」

10分ほどすると、義母が目を開けた。自分がなぜこうなっているのか理解できない状況。裸のままだという認識が戻ったのか、急に体を隠す動作をした(誰もあなたの裸なんかに興味ないから心配無用と、ここまでに散々迷惑を被ったこちらからの悪態を心の中で吐露する)さらに10分ほどするとしっかり意識が戻った。義母が隊員の方に

「どなたですか?私、何かしたの?」

「救急隊員です。お風呂で寝てしまったようですよ」

「お名前は言えますか?」

「はい。〇〇です」

「息子さん、間違いないでしょうか?」

「はい、大丈夫なようですね」

「〇〇さん、具合はどうですか?」

「大丈夫です。気持ちよくて寝てしまった」

「気分はどうですか?」

「気持ちいいです。眠くなっちゃった」

そっちの気分じゃないから(内心爆笑)。外出していた妻へも連絡を入れていたので、妻が帰宅。義母は妻にバカとかアホとか、どれだけ迷惑かけたのかよく考えろ!とか、ひととおりの暴言を浴びせられていた。妻も顔に出さずとも心配していたのだろう。

私はと言えば、怒りというものはなかった。ただ今後はひとりでお風呂入るにしても注意しておかないと危険だなとか、今後の心配ばかり考えていました。義母はニヤニヤしながら

「お風呂気持ち良くて、寝てしまったんだよね〜」

「・・・」

「ごめんね、迷惑かけてしまって」

「本当に迷惑だよ。お風呂で寝る人なんてはじめて見たかも」

「死ななくて良かったわ」

「気がつかなかったら死んでたと思うよ。あまりニヤニヤしないで。場違いも良いところだし、真面目に対応したこっちはイライラするだけだから」

「ごめんね」

その後義母は落ち着き、そのまま眠った。落ち着いたあとに妻が冷静な顔でぼそっと

「そのまま死ねば良かったのに」

と言い放った。安心からくる悪態だとは思うけど、実の親子は辛辣だよなと感じた。他人の私には流石に言えない言葉。私はと言えば、ようやく冷静になっていた。冷静になって怖いと感じたのは、もしあの時そのまま気を配らなければ、義母を死なせてしまっていただろうこと。そうじゃなくて良かった。自分が原因で人が死ななくて・・・。何事もなくて本当に良かったと素直に安心した。